家庭医 宮地 純一郎さん

1980年生まれ、2005年大阪大学医学部医学科卒業
同年より地域医療・家庭医療を志し、公益社団法人地域医療振興協会にて地域の中小病院・診療所での研鑽を積む。
2010年より医療法人北海道家庭医療学センターの診療所指導医を育てるプログラムに参加し、家庭医療・総合診療の教育・研究方法を学ぶ。

現在は滋賀県長浜市における地域に密着した医療の実践、同法人の診療所指導医を育てるプログラムの運営、地域での医師患者関係の研究という三つの仕事を軸に活動している。(CTI応用コース85期修了)

人生の節目に関わる

Q. 今、お仕事や役割として、されていることは何ですか?

主に3つあります。
1つ目は、滋賀県、長浜の診療所の医師です。
患者さんの身近なところで、患者さんが病気を持っているかどうかに関わらず、その人の悩みに対応することを医者としてやっています。

体の症状を入り口にはするけれど、たどり着く先は、病名だったりしないことも多いんです。病気を切り口に、人の人生の節目だったり、生き方のサポートをしています。「節目」というのがひとつのキーワードだと思っています。

2つ目の役割は、北海道家庭医療学センター(*1)の指導医です。節目と良いつき合い方ができるお医者さんを増やすために、患者さんや住民の人とどうつき合うかを形にした学問を、次の世代の医者に教える仕事もしています。

3つ目の役割は、京都大学の研究生です。
節目につき合っていると、人が人に対する気遣いや思いやりを発揮する場面を多く目にする機会があります。それを、医療の現場だけに閉じ込めておくのはもったいないと思っています。

それを他の場所にも届けていくための一つの試みとして、人の思いやりの部分が言葉になって分かるような研究を始めようとしています。

 

Q. 宮地さんの考える人生の「節目」とは何ですか?

喜ばしいもの、悲しいものも含め、人生の中で誰しもに訪れる重要な転機のことです。

例えば、結婚、出産、転職、就学、近しい人の死去などがそれに当たる方もいるでしょうし、これらの言葉ではあらわせない節目も世の中にはあります。節目の時、人は自分のこれまでを振り返り、未来を見つめ直し、かつ周りとの関係性や自分の役割について考えます。

そして、そういったプロセスは一人だけで越えるのが難しく、周りの人との対話が必要になる場合があります。また、時には体調の変化という形で現れることもあります。

節目は人を成長・変化させるものでもありますが、同時に人からの関わりでいかようにも変わりうる、大切なものだと思っています。そして時には簡単には変えられない、複雑なものでもあると感じています。だからこそ、節目の時に関わることに意味を感じています。

Q. この3つの役割の土台は何ですか?

どこかで、人の感情の力や思いやりの力を信じていて、それが土台にあると思います。

医者になって5年目の時、半年過ごした岐阜の山の中で、医者としていろんなお年寄りの話を聞く機会があり、その日その日を大切に生きる生き方に触れて、すばらしいと思いました。そういうところに人の気持ちの強さや優しさを感じました。

いろんな人たちが持っているそういうものが、もっといい方向に向きやすい、つながりやすい世界を創ることに貢献できたらいいなと思っています。

人の成長や変化を
大事にする

Q. お医者さんの中でも、
「家庭医」に意識が向いた経緯を教えてください。

人の節目の時に、心の変化を支えたいという想いがあったので、医者の中でも、最初は小児科や精神科がいいかなと思っていました。

実際にそういう分野を見る機会がありましたが、ちょっと違うなという感覚がありました。病気という節目がその人の変化や成長につながっていくことを助けたり、邪魔しないことを大事に、現場でうまくやっている先生達はいっぱいいるけれど、それは、その先生が人格者で、人を見るまなざしがすばらしいからできていると感じました。

自分には、そこまでのまなざしはないし、素ではそれはできないと思っていました。だから、その方向に向かってゆくために病気だけでなく、節目に出会った人に関わることを学べる分野はないのかと探していたんです。

大学5年生の冬頃に、そういう分野の研修をやっているところが北海道にあるよと先輩から聞きました。名前を聞いてホームページを見たら、「家庭医療学(*2)」という学問があると書いてありました。

そこには、「患者さんの身近なところで、患者さんのいろんな体の症状を分け隔てなく見て、しかも、必要な難しいところは、専門分野の先生と協力しながら、一人の患者さんに対して継続して関わり、その人の人生にあわせて医療を提供する」と書いてありました。

それを見て、自分ができるといいなと思っていたことと近いな、これかもしれない!と思って応募して、4泊5日で北海道に見学に行きました。

行ってみたら、かなり思ったものに近い感触がありました。

  • Index
  • Next

*1. 北海道家庭医療センター
北海道を中心とした家庭医療(後述)の実践を着実に重ねること、家庭医療を実践できる「家庭医」を育てること、そのプロセスを通じて北海道および日本の家庭医療の発展に貢献することをミッションとした組織。
2008年に医療法人母恋から独立し、現在は僻地・都市部の両方を含む、北海道7カ所、関西1カ所、九州1カ所に診療所拠点を置き、診療と医療者養成、研究を展開している。
(参考URL http://www.hcfm.jp/hcfm/

*2. 家庭医療学/家庭医療/家庭医
家庭医とは、日本の中でも30年ぐらい前には当たり前だった「古き良き時代のまち医者」を何となく思い浮かべていただきたいと思います。地域住民と継続的な人間関係を築いていて、患者一人一人の個性や家族の状況、さらには地域環境も把握し、幼児でも、おじいちゃん、おばあちゃんでも、また、どのような健康問題でも、「専門外」などと言わずに、とにかく診てくれる。呼ばれれば往診もし、場合によっては夜中に診察することもある。そんなイメージです。
(参考URL http://www.hcfm.jp/family/concept.html

当たり前のように思われるかもしれませんが、着実にそれを実践できる力を身につけようと思うと、体の仕組みや病気の仕組みだけでなく、心の仕組み、病気を持った人がどう感じるのか、家族と人間が一生に通る節目が人に与える影響、地域の文化と人間の健康の関係など、幅広い知識とそれを現場に適用する力が求められます。それを集大成して扱った学問が家庭医療学です。

響きから生きる人たち インタビュー

Page top