世界銀行を変えることから始める

やっていることは、一環して内部改革なんですね。

そうですね。1年目、まだ総裁が替わる前は、診断と弾ごめをしていました。総裁の任期が5年で、次に替わるとわかっていましたから、次の総裁が改革志向の人だったらそれをすぐに持って動き出せるような100日プランを作ったりしていました。

2012年に新しい総裁となったジム・ヨン・キムさんは、なかなかインスピレーションに優れたリーダーだと思います。

これまでの世銀の代表は、例えばウォールストリートの元銀行家などのエコノミストが多かったんですけど、全然違ったアプローチで。

彼は、医者でもあり文化人類学者でもあり、世銀に来る前は大学の学長で、NGOもやっていた経験があって。WHO(*4)のエイズ部局の部長さんをやっていたこともあるし。

本当に世界から貧困をなくすっていうことを、心から信じてパッションを持って動いている人です。

彼は、世銀に対してもともと批判的だったんですが、総裁になることになって、彼は彼で世銀を直したい、という思いがすごく強かったんだと思います。

彼が、最初の三ヶ月くらい、津々浦々をまわって、スタッフみんなに2つの質問をするんです。

「あなたが見た世銀のbest of the bestは何だったか?」

「たまにそういういいことができるんじゃなくて、どこの国でもどんな問題でも、いつでもそんな最高のパフォーマンスができるような世界銀行であるためには、何を変えなきゃいけないか?」

そうするといろんなアイディアが出て、ありとあらゆることを聞き尽くして、僕らが一年前から準備してきたいろんな種がそこに全部入りました。

世銀の事業目的を世界の現状に合わせてちゃんと定義しなおすことから始めて、それを具体的な数字目標に落とすことを次にやり、組織構造をそれにあわせて変えました。

そして、ツインゴールというのを決めました。

一つ目は、2030年までに世界から貧困を本当に無くすこと。
1日1.25ドル以下で暮らす絶対貧困層と言われる人たちが、今14億人いるんです。

それを厳密には、数字上3%以下にするっていうことです。3%以下にすることは本当に難しいんですけど、1年に1億人貧困を減らすっていう目標です。

二つ目は、Sheared prosperity。
繁栄を共有することで、格差を解消するということです。これは、日本も含めて全ての国の、所得が低いボトムの40%の所得の成長速度を上げるっていうことです。単に経済成長しても、それは達成できないんですよね。

これらの二つの目標と、サステナビリティーというのを決めました。そして、それを達成するための改革メニューが20個ぐらいできて、それらを全部束ねる部署ができて、僕はそこに移り、2014年7月1日に世銀が新装開店しました。

死ぬときに、
ごめんなさいと言わない

これから先の未来に、どんな方向性を見ていますか?

長期的な職業目的はあります。
それは、死ぬときに、子どもや孫に「ごめんなさい」と言わずに済むことです。

卒業する前に、大学の学長が最後の授業で「君たちの世代は本当に大事だ」と言われました。

その人はもうおじいちゃんで、オバマ政権でもクリントン政権でも当事者として仕事した人なんですが、自分たちが取り組んできた問題よりも、これからの問題は時間軸も短いし、一つひとつが深くて広いし、お互いに絡まり合って、ここで解決したと思ったら違うところが悪化する。

なおかつ、だんだん後戻りがきかない風になっていく。彼が前線でやっていたときには、違う軌道をセットできたかもしれない。

一方で、今の前線で問題解決にあたっている人たちは、悪化を防ぐことはできるかもしれないけれど、より広い解決策は、今の延長線上にはない。

だから、彼は学生に向かって「ごめんなさい」って言ったんですよ。我々の世代でこれを解決することができずに、君たちの世代にこれを引き渡さなければいけないことを、とても申し訳なく思うと。

そして、君たちの世代がこれを解決できずにそのまま次の世代にこの問題を引き渡さなければならなくなったとしたら、その次のジェネレーションはもうないって話なんですね。

それは、抽象的に言うだけじゃなくて、個別にいろんなことを勉強した上で、授業の最後に言ったわけなんですけど、腑に落ちたんです。

じゃあ、悲観的になるかというと、人間のクリエイティビティやレジリエンシーは立派なもので、いろんなイノベーションが生まれているんですよね。

イノベーションっていうのは、技術とかエンジニアリングのことだけじゃなくて、組織の作りかただったり、問題へのアプローチの仕方だったりを広く見直すっていうことです。

だから、今まだ想像もつかないいいアプローチが出てくるかもしれないですよね。

そこに楽観的にいらっしゃるんですね。

そうですね。アントレプレナーとかイントラプレナーとして、自分もその前線にずっと関わり続けたいと思って、世銀の仕事とは別にsoket(*5)をやっています。

今は、難しい問題だから国がなんとかしなければっていう社会じゃないですよね。

アイディアがあって、そのアイディアを人に説得できて、助けてもらったり、お金を集めることができたり、組織を作ることができる人が解決しちゃう。そういう世の中になるんだと思うんです。

異なる世界の橋渡しをする

日常で一番ワクワクすること、夢中になることは何ですか?

一番ワクワクすることってなんでしょうね・・。注意散漫でいろんなワクワクをいくつも追いかけていることが多いですね。

どこかで、複数持っているべきだと思うようになったんです。一つに集中していると狭まってしまうし、インスピレーションの出所が限られてしまう。

慶応の藤沢キャンパスは学際的だと言われていて、理系なのか文系なのか、みんなあまりそういう区別をしないでやっていました。

留学先でビジネススクールと行政大学院とMITのメディアラボという3つを掛け持ちしていて、慶応の藤沢でやっていたことをボストンでやろうとすると、この3つが必要だったということに途中で気づきました。

まったく違う言語をしゃべって、まったく違う分野で仕事をしているように見える人たちの間に、実は共通の問題意識があるとか。

あるいはまったく逆で、ここでは見落とされているけど、実は大事かもしれないものが、いかに別のところで熱心に議論されているかが分かることが日々あったんです。

エンジニアの世界と、ビジネスの世界と、ポリシーとかポリティックスの世界を毎日行ったり来たりしているうちに、それはやっぱり、快感になったんですよね。

世銀とsoketをあわせてやるっていうのもそこだし、自分を右とか左とか両方に引っ張り続けるワクワクをいくつも持っていないと、ちょっと不安になるかもしれないですね。

世界中の神話や寓話を研究して、パターンを導きだした「千の顔を持つ英雄」という本がありますが、そこでは、パターンはみんな同じだっていうんです。

桃太郎がまさにそうで。
まず旅に出て、異形のものたちと出会い、助けを得る。自分の中のデーモン(鬼が島の鬼)に出会い、それを克服する。

目的を達成して、違う世界に生きるものと言葉を通じあわせて、あっちの世界とこっちの世界の間で問題になっていたことを解決して、戻ってくるんですね。

で、戻ってきて英雄になる。
戻ってこなかったらもうヒーローじゃない。

戻ってきた人は、こっちの世界とあっちの世界の橋渡しができて、あっちの世界から見たこっちの世界を翻訳してこっちの世界の人に伝えることができるし、外交ができる人です。

世界が狭くなって、国と国が近くなって、民族と民族が一緒に暮らさなきゃいけなくなる世の中で、みんながそういう動き方ができるようにならないと、解決に向かわない問題があります。

その多様性というか、まったく違うものの共存を自分の中でも押し進め、それを介して周囲で、新しいつながりを生み出し、創っていくことは、ワクワクしますね。

金平さんの夢はなんですか?

あるとしたら、人類として勝利宣言をすることかな。

この星で、お互い殺し合うことなく、極度の不条理に直面する人が大量にいることがなく、自分の世代より後の世代に責任を果たすことができる。

そういう社会や国と国同士のあり方を生み出すことができれば、人類は自分たちで作り上げてしまったモンスターに勝利したっていうことになると思うんですよね。

もう、いくつか勝利宣言はしてきているんだと思うんです。

例えば、エイズはまだなくなってないけれど、70年代〜90年代にかけて、HIVSで命を落とす人が加速度的に増えて、2005年をピークに今は減っています。

このままいったら撲滅できるでしょう。それができる人類っていうのは素晴らしいなと思うんです。

インタビューを振り返って

「どの見方を選択するか」が、未来に新たな可能性をもたらす

インタビュー中、何について話をしている時も、穏やかで明確さがあり、地に足のついたエネルギーを感じていました。
そして、そのあり方は、人や世界をどう見ているのかが大きく影響しているのだと思いました。

 

今起こっている問題は、他人ごとではなく、自分ごとでもあるのだということ。

世界には複雑な問題に一緒に取り組む仲間がいるということ。

人間は、クリエイティブでイノベイティブで、未来を変えてゆく存在であるということ。

人と組織の力の両方を、最大限に活かし合うことで生まれる可能性があること。

人類は、勝利宣言をすることができる存在であること。

彼が信じるそれらひとつひとつの世界観が響きの源となり、複雑で長期的な問題に向き合いながらも、楽観的に前に進むことを後押ししているのだと分かりました。

コーアクティブ・コーチングが信じている世界観に、「人は、自らものの見方を主体的に選択し、人や環境や状況の犠牲になるのではなく、人生の主導権を握り、生きることを願っている」というものがあります。

金平さんの物語は、主体的にどんなものの見方を選択するかが、未来に新たな可能性をもたらすことを教えてくれていると感じます。

「あなたは、未来をどう見ることを選びますか?」

 

響きから生きる人たち インタビュー
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*4. WHO
World Health Organization(世界保険機関)

*5. soket
特定非営利活動法人ソケット
日本と世界の未来に向けて、志ある個人が職場を超えて対話し、行動し、変化を起こすことをエンパワーすることを目的とした非営利団体
http://www.soket.me/

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